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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)541号 判決

本店所在地

東京都北区中里二丁目五番四号 小山ビル

有限会社ワン・ロイ

(右代表者代表取締役 小杉重信)

本籍

佐賀県伊万里市波多津町内野一〇三九番地

住居

東京都豊島区駒込三丁目二三番一四-九〇三号

会社役員

小杉重信

昭和二三年一月二日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社ワン・ロイを罰金三八〇〇万円に、被告人小杉重信を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人小杉重信に対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社ワン・ロイ(以下被告会社という。)は、東京都北区中里二丁目五番四号小山ビル(昭和五九年六月五日以前は、同都豊島区巣鴨三丁目二二番九号篠ビル)に本店を置き、調理器具等家庭用雑貨品の卸売販売等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人小杉重信は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人小杉は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、あるいは架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五七年三月一一日から同五八年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一一八万八一六六円あった(別紙一の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である昭和五八年五月三一日、同都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が六〇万四四四三円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第六六六号の2)を提出し、そのまま法定の納付期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四一五三万八九〇〇円(別紙二の(1)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年三月一日から同五九年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三〇八五万九五〇五円あった(別紙一の(2)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同五九年五月三〇日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一二万三四一四円でこれに対する法人税額が七八万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の1)を提出し、そのまま法定の納付期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額九五八五万円と右申告税額との差額九五〇六万三九〇〇円(別紙二の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

(1)  当公判廷における供述

(2)  検察官に対する供述調書七通

一  福本修也の検察官に対する供述調書謄本三通

一  小島勝司の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の左記調査書(とくに別紙修正損益計算書の各勘定科目ごとの当期増減金額の内容について)

(1)  売上調査書

(2)  受取手数料調査書(判示第一の事実)

(3)  期首商品棚卸高調査書

(4)  仕入調査書

(5)  外注費調査書(判示第一の事実)

(6)  期末商品棚卸高調査書

(7)  役員報酬調査書

(8)  給料手当調査書

(9)  法定福利費調査書

(10)  福利厚生費調査書

(11)  消耗品費調査書

(12)  事務用品費調査書

(13)  地代家賃調査書

(14)  保険料調査書

(15)  旅費交通費調査書

(16)  通信費調査書

(17)  水道光熱費調査書

(18)  荷造包装費調査書

(19)  広告宣伝費調査書(別紙第二の事実)

(20)  租税公課調査書

(21)  交際接待費調査書

(22)  新聞図書費調査書

(23)  支払手数料調査書

(24)  車輛燃料費調査書(判示第二の事実)

(25)  出張旅費調査書

(26)  賃貸料調査書(判示第二の事実)

(27)  販売促進費調査書

(28)  雑費調査書

(29)  受取利息調査書

(30)  商品取引益調査書

(31)  雑収入調査書

(32)  有価証券売買損調査書(判示第一の事実)

(33)  交際費損金不算入額調査書

(34)  損金不算入投員賞与調査書(判示第一の事実)

(35)  繰越欠損金当期控除額否認調査書

(36)  事業税認定損調査書(判示第二の事実)

(37)  当期損失調査書(判示第一の事実)

一  検察事務官作成の証明書

一  検察事務官作成の電話聴取書(謄本)

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  東京法務局北出張所登記官佐藤照男作成の商業登記簿謄本二通

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六二年押第六六六号の2)

判示第二の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の1)

(法令の適用)

被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内において被告会社を罰金三八〇〇万円に処し、被告人小杉の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人小杉を懲役一年六月に処し、後記情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、調理器具等家庭用雑貨品の卸売販売等を目的として昭和五七年三月、日本ハウスウエア株式会社の卸売先をいわゆる「のれん分け」してもらう形で、設立された被告会社において、その代表取締役である被告人が、被告会社の業務に関し、利益率を非常に高くした輸入調理器具の卸売販売により得た多額の利益を隠匿すべく、売上金の一部を除外し、また、架空仕入を行うなどの方法により二事業年度分合計一億三六六〇万円あまりの法人税を免れたという事案であって、そのほ脱税額は多額であり、税ほ脱率も昭和五八年二月期が一〇〇パーセント、同五九年二月期が九九・一七パーセントと高率であり、しかも、被告人は、被告会社設立後も日本ハウスウエア株式会社の経理事務等も手伝っているうち同社が多額の脱税を行っていることを知り、法の定めている税金を正規に申告納入することはないとの考えに立ち、当時被告会社の監査役であった顧問税理士からの「会社設立当初は通常多額の債務を存することが多く、所轄税務署に所得を捕捉されにくいであろう」との示唆に便乗して会社設立初年度から本件脱税行為に及んだもので、被告人には納税意欲が窺われず、その犯行動機に酌むべきところはなく、また、被告人は、昭和五八年三月期については被告会社と日本ハウスウエア株式会社との原価取引による被告会社の右日本ハウスウエアに対する一億円を超える売上を除外し、そのため顧問税理士から売上金額が仕入金額より七〇〇〇万円以上も少ないという通常の営業状態からでは考えられない不合理な試算結果になる旨指摘されると適当に架空の売上を計上するなどして辻褄を合わせ、昭和五九年二月期についても二億円をこえる被告会社のハウスウエアに対する原価売上を除外し、右税理士から二億円を超える利益が発生することになるとの試算結果を示されると二億四〇〇〇万円もの架空仕入を計上して多額の所得を隠匿していたもので、その脱税の手段・態様も計画的、かつ、大胆であり、更に、昭和五九年六月には税務署による調査を免れようと被告会社の本店所在地を所轄税務署の管轄外に移転するなどしていることにも照らすと犯情は悪質であり、この種事犯の罪質をも併せ考えると被告人及び被告会社の刑事責任は非常に重いと言わなければならない。しかしながら、本件は、右日本ハウスウエアによる脱税行為を契機としてその形態をいわば踏襲する形でなされたもので、被告人みずからの発案によるものと決めつけるわけにはいかないこと、本件脱税の規模が拡大するについては、被告会社の監査役として経理関係をチエックすべき立場にあった税理士の杜撰な態度も軽視することができないこと、被告人は、国税当局の査察調査を受けたことにより本件の重大さを認識し、犯行を認めてその調査に協力し、本件起訴にかかる二事業年度分につき修正申告し、本税分についてはこれを完納し、重加算税等及び地方税についても順次分割納付を続けるなどして反省の態度を示していること、被告会社においては本件後新たに関与することになった税理士の指導のもとで経理処理の明確化に努めていること、被告人らには前科や犯歴のないことなど被告人及び被告会社のために有利な事情が認められる。

以上のような本件犯行の動機、経緯、態様、結果、罪質、被告会社及び被告人の反省状況、被告人の身上等、諸般の情状を総合勘案し、被告会社及び被告人に対し主文掲記の刑を量定し、被告人に対しては、今回に限り刑の執行を猶予し、自力更正の機会を与えるのが相当であると認められる。

(求刑 被告会社につき罰金四〇〇〇万円、被告人小杉に懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

検察官井上經敏、弁護人神宮壽雄各出席

(裁判官 中野久利)

別紙一の(1)

修正損益計算書

有限会社ワン・ロイ No.1

自 昭和57年3月11日

至 昭和58年2月28日

〈省略〉

別紙一の(2)

修正損益計算書

有限会社ワン・ロイ No.1

自 昭和58年3月1日

至 昭和59年2月29日

〈省略〉

別紙二の(1)

ほ脱税額計算書

会社名 有限会社ワン・ロイ

自 昭和57年3月11日

至 昭和58年2月28日

〈省略〉

別紙二の(2)

自 昭和58年3月1日

至 昭和59年2月29日

〈省略〉

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